チームに所属して監督やコーチの指導を受けるのが一般的だった野球で、レベルアップを目指す子供の受け皿となる「塾」がこの数年で増えている。所属チームの練習で不足していると感じる部分を補う学習塾のような役割だ。サッカーなどと違い「個人指導」の文化が根付いていなかった野球にも“Wスクール”の波が押し寄せている。1コマ5000円程度と決して安くはない相場だが、より高い“技術”を求める需要は大きい。
◆所属チームと“ダブル”で指導を受け成長加速?
福岡市中央区の草ヶ江小学校を拠点に活動する少年野球チーム「草ヶ江ストロンガーズ」。19人の部員がグラウンドで白球を追う。指導する監督は、WBCで侍ジャパンが世界一になってから子供たちの野球に対する姿勢が変化したと感じている。
根本宗幸監督「真剣味が強くなり、勝つことに対する意識は高くなったと思う」
このチームに所属する小学5年の吉田宗典くんは、月に2回ほど野球用品の専門店(福岡市中央区)にある野球塾に通う。室内にはバッティングスペースがある。側について指導するのは、日本ハムで7年間、1軍バッテリーコーチを務めた長田博幸さんだ。福岡市と北九州市の2店舗で約60人の小中学生に技術の“手ほどき”をしている。長田さんの「野球塾」は1コマ1時間で料金は約5000円。その指導はバットとボールを使ったものだけではない。けん玉によるユニークなトレーニングなども採り入れている。
◆個別指導が上達の“近道”に
長田博幸さん「クラブチームや部活は個人的な練習が少ない。もっとうまくなりたい、もっと練習したいという気持ちがある選手もいっぱいいる。神経系の発達は、小学生の後半から中学生の前半までが一番伸びる時期。頭を使っていろんな体の動かし方を身に付けることが将来につながる。なんでもうまくなりたい、勉強していろんなことを覚えたい、それと一緒かと」
吉田くんは、長田さんの指導により「フォームがよくなり、できることが増えた」と話す。所属するチームの練習に加えて元日本ハム1軍コーチによる個別指導が上達を加速する。子供を支える親は、教え方に着目する。
吉田くんの母・優香さん「教え方が元プロなので上手です。褒めて伸ばす指導で本人もやる気になって頑張っています」
多人数と向き合うチーム練習と違い、野球塾は少人数、もしくはマンツーマンによる指導だ。練習の“密度”が高まることで個人の抱える課題が見つかりやすくなり、上達の近道となることが期待されているようだ。
◆監督と衝突?所属チームとの“折り合い”が課題に
福岡県新宮町にも元ロッテの西嶋賢司さんによる野球塾・NBA野球教室がある。通っているのは約30人の小中学生だ。西嶋さんによると、「野球塾」が増える一方で、所属する選手に外部で個人的な指導を受けることを禁じているチームもあるという。
西嶋さん「個人の野球塾は少なかったが、このところすごく増えた。福岡ではおそらく10か所は超えている。教えてないことをなんでやるんだ!と指導者の否定につながり衝突してしまうから、塾にこっそり来ている生徒もいる。チームに所属していれば指導者の言うことを聞かないとなかなか試合に出してもらえない」
一方で、先出の「草ヶ江ストロンガーズ」の監督は、チームでの活動に加え「野球塾」に通うことを好意的に受け止めている。
根本宗幸監督「一人ひとりをケアしてやるのは難しいし指導経験が少ないお父さんたちもいる。教えてもらうのはいいことです」
野球塾OKのチームで白球を追う吉田くん。先月の試合ではレフトオーバーのツーベースヒットで得点のチャンスを作った。「次はもっと遠くに飛ばしたい」と息巻きながら、これからも「野球塾」に通ってさらなるレベルアップを目指す。
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