バリリ四重奏団が1950年代にウエストミンスターに録音したベートーヴェン弦楽四重奏曲全集から「第4番 ハ短調 Op.18-4」。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を録音しようと心に決めた団体には、その音楽性の好き嫌いに関わりなく最大限の敬意を払いたい。
生半可な気持ちで全集録音を目指そうと思うグループはいないであろうから。
しかし、その中でも個人的にはバリリ四重奏団の録音は全く別物、至高のプロダクトだと思っている。
厳しさや柄の大きさとは異なる、何気ない音の重なり合いに細やかな神経が自然と通った演奏。
1953年に録音されたこのハ短調の第4番ですら、その調性を強調しようはせず、とにかく細やかに音のひとつひとつが生き生きと心に訴えかけるような演奏だ。
1996年のことだったと記憶しているが、バリリ氏が来日し、高崎で日本の音大生グループを相手に室内楽の公開レッスンが行われ、聴講しに行った。
それはとても興味深いレッスンだった。
そこで東京藝大のクァルテットが、この第4番を演奏したのだが、第1楽章でバリリ氏が強調したのは「急がないこと」「16分音符の刻みがはっきりと聴き取れるテンポで」ということだった。
実際にこのLPを聴いても、それはその通りだ。
若い演奏家がこの曲の特徴を表現しようと少し前のめりになり、激しさを追い求めているような演奏に対し、優しくも自信をもってアドバイスしているようだった。
そして15分程度やり取りを繰り返すと、それはこの曲の懐の深さを見せるような全く新しい演奏に生まれ変わっていた。
マジックだった。
バリリ氏も大変満足した様子だった。
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